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「ほう、勘当されたとは。・・・ワシはバンケルク将軍の末路を聞き、貴官のご子息は良い処で立ち去ったものと逆に感心しておったのだが。」ラシャレーは意外そうに言った。 「悪いが、ワシはバンケルク将軍の最後については少しも同情しておらん。天に見放されるだけの不手際をしてのけて滅んだものと考えている。どうにせよ、近衛師団長、越権じゃ。いい加減に任地に帰りませい。これ以上、貴官の話を聞く耳は持たん。」ラシャレーは険悪な眼差しでギロリとルノーを睨み据えると、playgroup香港キツい調子で決め付けた。「このルノーに対し・・・覚えておれよ。」近衛師団長は歯ぎしりしながら低く吠えた後、ぷりぷりと怒りを隠しもせず執務室から立ち去って行った。その後ろ姿をラシャレーの執務室付きの護衛兵が見つめながら、クスリと笑った。尊大さを見せつけるようにして乗り込んで来た老将軍をラシャレーが全く相手にせず追い払ったのが、よほど小気味良かったようである。スッキリした顔付きになっていた。さて、例によって脇道に反れるが、ここで我が家に戻ったモルフィネスがどのように勘当されたのか、その顛末に触れるのをお許し願う。ハナハナ山でエレナ一行と別れたモルフィネスと群狼隊達はゲッソリナを通ってバスバス平野の近くにあるモルフィネスの自宅に辿り着いた。名門を自負するだけあって、大きな門構えの豪壮な邸宅である。邸内に果樹園まであるようだ。「今戻った。連れもいる。」モルフィネスは門番にそう言って門を通ろうとした。だが、門番が前に立ちふさがったのである。これには、流石のモルフィネスも大いに驚いたようである。我が家に入るのを邪魔する門番が何処の国にいようというものである。「お入れするわけにはまいりません。」門番は緊張した面持ちで言った。声が震えている。. 「何の冗談だ。」モルフィネスは門番の顔を覗き込むようにして少し笑った。我が家に帰って来た安心感か、この冷血のスタイリストでも笑顔を見せるようである。「冗談では有りません。」屋敷の中から飛び出して来た男が言った。使用人頭である。「軍を追放されるような恥曝しは勘当する、決して家に入れるなとの当主ルノー様の言い付けです。」使用人頭は冷ややかに言った。モルフィネスの事をどう思っているのか、憎体なまでの口調である。何しろ、いきなりの話である。驚いた顔をしないのが信条かと思えるモルフィネスも、ただ呆然として使用人頭の無礼を咎める事も忘れ果てて、目を丸くした。「此処に金貨500枚有ります。これを持って何処へなりと消え失せろ、二度と現れるなとの事です。これは当主ルノー様が申された事です。」使用人頭は切り口上に言って、投げ付けるようにモルフィネスに持ち重りのする皮袋を押し付けた。「待て、父上を呼んでまいれ。」「なりません。顔も見たくないとの事です。さっさとお立ち去り下さい。」あまりな使用人頭の対応に、モルフィネスの顔が凶暴に歪んだ。今にも皮袋を叩きつけて、剣を抜きそうである。一緒に付いて来た群狼隊兵士もモルフィネスが剣を抜けば、屋敷に斬り込んで行きそうであった。凄まじい顔付きでモルフィネスは使用人頭と門番を睨み付けていた。しかし、暫く睨んでいたが、その顔付きに使用人頭が恐怖の色を浮かべたのを見て、モルフィネスは大きく息をした。それから、気を静めるために何度か大きく息をした後、何も言わずに使用人頭達に背を向けて、己の生まれ育った屋敷から歩み去った。勿論、群狼隊の面々もそれに続いた。
(ふん、何を言いやがる。心にどす黒い刺を含んでいても、上辺を飾り立てて人と言葉を交わし、当たり障り無く渡って行くのが作法とやららしいが、真っ平ごめんだぜ。)ハンベエは傲岸なタチであり、人に対する反感を胸中に唱える事等はあまり無い。気に入らない時は、誰に対しても面に露にする事を躊躇しない若者である。しかし、このラシャレーという老人は人間の厚みが違うのか、流石のハンベエも幾分心を押される処があるようだ。「ハンベエ、次につかぬ事を尋ねるが、その方、姫君と何か行き違いでもあったのか? どうもエレナ王女のその方に対する態度が解せぬ。」「・・・ふふ、Benenden Bilingual School行き違いとは物は言いようだ。王女とバンケルクの仲を知らぬではあるまい。バンケルクを破滅させた俺を快く思わなくても不思議ではあるまい。」「確かに、バンケルクは姫君の剣の師であったが・・・それにしても・・・。」「ああそうか。バンケルクが王女に求婚していた事までは流石のあんたも知らぬ事だったよな。」「何、バンケルクの奴、そのような事を・・・。」「ああ、王女はバンケルクをイイナズケって言ってたぜ。」「ばっ、馬鹿な事を、如何に男女の事とは申せ、一将軍の身で、ゴロデリア王国の王女に求婚するなどと。」「王女の方はまんざらでもない様子だったぜ。」「姫はまさかバンケルクと契りを・・・。」「おいおい、それは王女に対して失礼な想像だぜ。まあ、俺の見るところ、そんな関係ではなかったようだぜ。ただ、王女はバンケルクを恩人と呼んで、すこぶる好意を寄せていたようだ。」「恩人、何と幼い・・・。一介の将軍に過ぎぬバンケルクなどをそれほど迄に・・・。」「何せ、その関係でこの俺と斬り合いになったくらいだからな。」「斬り合いだと?・・・まさか、貴様、姫君に刃を向けたのではあるまいな。」「向こうから決闘を申し込んで来たんだぜ。後ちょっとで王女を斬り捨てるという処で邪魔が入ったがな。」「斬り捨てるだと、貴様、姫君を何と心得ているのだ。そのような事が許されるとでも思っているのか。」「ああ、何だ? まさか、あんた、王女は尊い身分の人間で俺はただの風来坊だから大人しく殺されろって言うんじゃあるまいな。」「そんな事は言っておらぬ。そもそもハンベエ、姫君の腕前はその方に及ばぬのであろう?」「・・・そうだな。俺の方が上だ。」「であるなら、断れば良かったではないか。決闘を断わった人間に斬り付ける人間か?姫君は。」「・・・。」ラシャレーの言い分にハンベエは虚を突かれた思いであった。ヒョウホウ者である自分は挑まれれば断れない、ハンベエはそう思い詰めていた。この若者は別にエレナを斬りたくてあの時、『ヨシミツ』を抜いたわけではない。このようにあっさりと、『断れば良かったではないか。』と言われてしまうと、あの胸を切り裂かれるような苦悩が酷く馬鹿馬鹿しいものに思え、拍子抜けする思いであった。言われてみれば、ラシャレーの言うとおりであった。断れば良かったのである。ハンベエが『お断りだ。』と言ってしまえば、しつこく挑んで来る事は有っても無法に斬り掛かって来るエレナでは無いのだ。くっくっ、くっと無意識にハンベエは腹を捩らせるようにして笑っていた。「なるほど、確かにそのとおりだ。一理有る。いや、あんたの言うとおりだ。俺はどうやら、ヒョウホウ者という事に捉われ過ぎていたようだ。いい事に気付かせてくれた。次はそうするぜ。」皮肉めいた口調ではなく、すこぶる素直な様子でハンベエの口がそう言った。「妙な処で素直な男だ。まあ、極めて遺憾であるが、それも不問にいたそう。さて、最後に聞く。その方、何しにゲッソリナに戻って来たのだ。聞けば、このワシに会いたかったらしいが。」「・・・いやなに、俺はラシャレー浴場ってのが大のお気に入りでね。今回の件では、あんたと完全に敵になるものと思っていたから、殺し合う前に、せめてそれを作った人間の顔なりと見て置こうと思ったのさ。そして、あわよくばラシャレー浴場にもう一度入っておきたいと思ってね。」
第二は、ハンベエに与している兵士達の気分である。ハンベエ達はタゴロローム守備軍司令部を敵として戦っているのだが、その戦いをこれほどまで兵士達が支援する背景、根底には兵士達の士官達への反感があった。ハンベエはその気分を敏感に感じていた。ハンベエ自身が人に指図されるのが我慢ならない性分であったため、この兵士達の気分を見落とす事が無かったのである。そういう状況で、下手に指揮官を定めて、統制を強めれば、折角高揚している兵士達の気分を削ぎかねないとハンベエは無意識に考えていた。もっとも、部隊編成をしたくとも適当な人材を把握していなかったというのが実情ではあるのだが。一撃。ただ一撃で勝敗を決しなくてはならない、とハンベエは考えていた。最初の一撃で敵を制し朱古力瘤てしまう。その事に全てを賭ける、とハンベエは心を決していた。選択肢で言えば、ハナハナ山を要塞化してタゴロローム守備軍を待ち受けるという策もあった。『攻城三倍の兵理』というものもある。つまり、構造物に依って守備を固める軍を撃ち破るには、その何倍もの兵数が必要という話である。タゴロローム守備軍に対し、ハンベエ側が兵士数が少ない事は始めから分かっている事である。通常、これだけの兵数差があれば、まずは守りを固め、敵の隙を伺う戦い方を選ぶものである。にも拘らずハンベエが、敵が軍を発出させたと聞くや、ハナハナ山に籠もる事を一顧だにせず即座に撃って出たのは、ハンベエの攻撃的な本性もさる事ながら、ハンベエが剣術使いであった事に関係しているようだ。何度も書いたように、剣術の究極は相討ちである。同時に斬り合って相手を上回る事である。そして、真剣に於ける斬り合いには、受け太刀なるものは無いそうなのである。共に斬り合って、刃を深く受けた者が倒れる。それ故に、相手の刃が身に到る前に斬るというのが剣術の本来の姿だと言われる。少なくとも、ハンベエがフデンから教えを承けた剣術とはそういうものであった。ハンベエがただ一撃と思い定め、そこで失敗ったら後がない軍勢である事を重々承知しながら撃って出たのは、剣術使いの性(さが)であったかも知れない。ハンベエはひたすら軍の先頭に立って歩いた。先頭を歩かなければならない理由が幾つか有った。一つはスパイの防止である。ハンベエは元々の第5連隊兵士以外にあまり信を置いていないと書いた。ハナハナ山のハンベエ等に寝返って来た兵士達の中にタゴロローム守備軍首脳部の意を受けて、ハンベエ達の動静を探りに来た兵士が万に一つ、潜り込んでいないとも限らない。崩壊しつつあるタゴロローム守備軍にそのような臨機の策を巡らせる者が、モルフィネスが追放された今、いるとも思われないが、油断は禁物である。仮に内通者がいて、タゴロローム守備軍首脳部に連絡を取ろうと考えても、最短距離を以て進軍している第5連隊より先に敵側に接触するには、先頭を歩くハンベエを追い越して行かなければならない事になる。仮に、そういう胡乱(うろん)な動きをする者がいたら、ハンベエは理由の如何を糾す前に斬ってしまうつもりであった。次の理由は敵の斥候であった。前回のアルハインド族との戦いに際しては、タゴロローム守備軍司令部はタゴロロームの外側、つまり、ゴロデリア王国外にまで斥候を放って敵の動静を探っていた。それを指揮していたのは、バンケルクなのかモルフィネスなのかは分からない。
第5連隊、クズ連隊 それでも死ぬ時ゃ、立派に死んだ 逝った仲間に思いをすれば 明日の命も要りゃしねえ歌いつつ、彼等は胸の中で、かつてタゴロローム司令部から受けた卑劣な扱いに対する憤りの炎を掻き起していた。今こそ復讐の時は来た、後は野となれ山となれ。反乱?、知った事か。国家への忠誠?、知った事か。ただただ憎いあいつらに、思い知らせてやるだけだ。悪逆無道のあいつらに。その後ろからやって来る寝返り組は、それに比べると戦意が落ちるのは否めない。しかし、ハンベエや元第5連隊生き残り兵士の勢いに呑まれて粛々と付き従っていた。途中、タゴロロームか優思明副作用らの脱走兵をぽつりぽつりと拾った。ハナハナ山に向かって逃げていた脱走兵は、逆にタゴロロームに向けて進軍してくるハンベエ達に少し驚いたようだが、先頭を進むハンベエやドルバスを見ると、向こうから、擦り寄るようにやって来た。それらの兵士からの情報を総合すると、タゴロロームの軍は総勢8000人ほどである。敵はどうやら、ハナハナ山での戦いを意識して、投石機や弩の類いまで運んでいるらしい。(敵は、まさか俺たちが迎撃に出て向かって来る、などとは思ってもいまい。ふい撃ちできそうだな。)先頭を進みながら、ハンベエは少し安堵した。8000人対2000人である。奇襲でもしなければ勝ち目は薄いであろう。ハンベエに付き従う兵士達にしても戦いの前途に不安を持っていないわけではあるまい。くどいが、8000対2000の戦いである。通常、倍の敵に勝つ事は難しいと言われている。戦略戦術を学んだ事のない兵士達でもその程度のコトワリは解る。いや、むしろ複雑な戦術を論じない兵士達であればこそ、単純な数の比較による強弱を強く意識していた。だが、その一方でハンベエに付き従っている兵士達は、負けるとも思えないのであった。ハンベエは言った。『この俺は自ら戦って敗れた事はない。』と。いみじくも、ハンベエに付き従う兵士達はその言葉が嘘でない事をタゴロローム守備軍司令部とハンベエの争いの中でまざまざと見せ付けられていた。 ハンベエに寝返った兵士達の本能はタゴロローム守備軍よりもハンベエの方を強者として選んだのである。そのような兵士達の揺れ動く心理を知ってか知らずか、ハンベエはほとんど口を開く事も無く、兵士達の先頭を足早に進んでいた。 ハンベエは足が早い。付き従う兵士達の中には徐々に遅れる者も出始めていた。しかしながら、ハンベエは進軍の速度を緩めようとはしなかった。(急がせなければならない。)とハンベエは考えていた。この若者は、実は今の時点では、元々の第5連隊以外の兵士、つまりタゴロローム守備軍から寝返って参軍して来た兵士達に信を置いていなかった。さもあろう、今は勢いに駆られてハンベエに付き従っているが、少しでもハンベエ達に不利な状況が現出すれば、蜘蛛の子を散らすように雲散霧消してしまう事がありありと見える、全く当てにならない兵士達なのだ。しかも、部隊編成をする暇(いとま)も無く、適当な指揮官を割り当てる余裕も無くハナハナ山を急発したのである。何故部隊編成をしなかったのか。理由は二つあった。一つは時間である。部隊編成をしていれば、迎撃の好機を逃してしまうだろう。ハンベエはハナハナ山に進軍して来るタゴロローム守備軍を途中で先に見つけて不意討ちを食らわせるつもりであり、それ以外に勝機を見い出していない。急がねばならないのである。