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「もし……、あんたが此度の件で腹を詰めることになったら、殴った俺も同罪となる。その時は、共に腹を斬ってやろう」
斎藤はそう言うと、慈しむような視線で藤堂を見る。口元には笑みすら宿っていた。
それを見聞きした途端に藤堂は目を見開く。そして子どものようにくしゃくしゃに顔を歪めると、身体を揺らして泣き始めた。
「鈴木」
突然声を掛けられ、yaz避孕藥 桜司郎は肩を揺らす。小さく返事をすれば視線が向けられた。
「済まないが、平助を頼む。俺は一足先に戻る故。ゆるりと戻ってきてくれるか」
「わ、分かりました」
斎藤は藤堂を桜司郎に任せると、さっと立ち上がり日野宿本陣へ足を向ける。
桜司郎は再度藤堂の背を支えると、座らせた。何処か背伸びをした青年が、今は物悲しげに見える。この時代の流れで、生きる為に大人にならざるを得なかったのだろう。
掛ける言葉も見付けられないまま、桜司郎はそっと空を見上げた。澄み渡るそれを見詰めながら、何処か懐かしい風の匂いに目を閉じる。 一足先に日野宿本陣へ戻った土方は、とくに布団をもう一組別に用意するように伝えた。藤堂は斎藤らと寝かせて、自分は別で休もうとしていたのである。
宴会場だった広間へ顔を出せば、既にお開きとなっていた。酔い潰れた者だけが をかいて寝入っている。
上手く義兄がやってくれたのか、とホッとしつつ土方は中庭が見渡せる縁側に座った。
柱に寄りかかれば、疲れがドッと押し寄せてくる。
大きく溜め息を吐き、先程背中に感じた藤堂の殺気を思い出した。近くに斎藤と桜司郎の気配がある事をを知っていたからこそ避けなかったが、仲間からあの様に殺意を向けられるのは辛いものがある。
──ああまで泣かせるつもりは無かった。平助に真実を教えてやれば良かったのか。……いや、それは山南が望むまい。きっとあれで良かったんだ。
土方は答えを求めるように、夜空を見上げる。憎らしい程澄み切ったそれに満天の星が煌めいていた。
そこへ草を踏み分けるような音が響く。黒い影のように、男が現れた。
「副長。……いや、歳さん。何故平助を煽った」
後を追い掛けて来たのだろう、斎藤が静かにそう問い掛ける。
上洛して上司と部下の関係になってからは、呼び方を役職へ統一し敬語を貫いてきた斎藤が、初めて江戸の頃のように砕けた話し方になったことに土方は口角を上げる。
「盗み聞きしてやがったのか。随分と良い趣味だな。良いんだよ、アレで」
「何が良いんだ、あのように誤解を招くような言い方をして。……平助はあんたのことを恨むかも知れないぞ。下手をすれば伊東さんへ付くかもしれない」
「恨んでくれて結構。……伊東の所へ行きたきゃあそれで良い。いや、むしろそっちの方が良いのか……」
試衛館と伊東の間で揺れ動くと思われる藤堂が不憫だと思ったのだ。真面目な藤堂は必ずいつか揺れる日が来るだろう。
山南のような思いをする人間はもう生みたくない。
だったらいっその事、端から伊東に付かせた方が の気も楽なのではないか。
そのように土方は考え、自虐的な笑みを浮かべた。そんな考えすら見透かしたように、斎藤は鋭い視線を向ける。
「歳さん……あんた、この期に及んで楽になろうとしちゃいないだろうな?」
藤堂と同じ二十一とは思えないほど、まるでこの世すら達観したようなそれに土方は背筋がゾクリと寒くなった。
──楽になる?まさか逃げようとしてたというのか、この俺が。……そうか、そうだ。平助や伊東から……いや、山南から逃げたかったんだ。
まさに士道不覚悟だ、と拳を握る。
「……済まねえ」
いつもは強気の土方が急にしおらしくなった事に、斎藤は態度には出さないが内心驚く。そしてやれやれと口角を上げた。