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二月中旬。
二番組の隊士が脱走したと騒ぎになった。
それだけならばただの規律違反で切腹で済む。
しかし問題になったのはそこからだった。
脱走した隊士を組頭である伊東が連れ戻し、近藤と土方の前に連れてきては共に畳に頭を擦り付けて謝罪したのである。
あまりの伊東の圧に耐え切れな https://www.easycorp.com.hk/en/accounting くなった近藤の取り計らいで、隊士は謹慎処分のみとなった。
新撰組始まって以来初の大異例な処分だった。これで例外が生まれてしまったのである。
伊東は伊東で近藤を仏のようだと褒めそやしつつ、隊士に向かって。
「貴方が死ななくて良かったです。もうこれからは勝手な真似はせずに、相談して下さいね」
などと芝居臭い台詞を吐き出した。
「…はいッ!伊東先生、有難うございます…!」
隊士は隊士でそれに感極まって泣き出す始末。
見目の麗しさと物腰の柔らかさ、そして情の深さにより伊東の評判は隊内で鰻登りとなっていた。
噂には尾ひれはひれが付くとは言うが、新人隊士を中心に伊東を崇拝するような動きすら見えている。
「……ッ、どうなっていやがる…!!!」
怒りを爆発させたのは、言わずもがな土方だ。
「お前さんは阿呆か!?何故例外を許しちまったんだ!これじゃあ今まで腹を切って死んで行った隊士達に向ける顔が無ェだろうが」
「落ち着いてくれ、歳」
烈火のごとく怒りを抑え切れない土方を、近藤は何とか諌めようとオロオロする。
「これが落ち着けるかってんだ!伊東にまんまと一杯食わされたんだ、お前さんは!」
「伊東さんがあそこまでして、頭を下げておられたんだ。寛大な心で許してやらねば、男が廃るというものだろう?」
近藤はそう言うと、太い眉を八の字にした。土方は初めて、近藤も伊東も纏めて殴りたい衝動に駆られるが、私闘厳禁の法度が脳裏にチラついたため我慢をする。
「伊東、伊東、伊東って、伊東が何だってんだよッ!彼奴はもうただの二番組頭だ、役職で言えば俺よりも山南よりも下だ!」
土方は怒りに任せてそのまま立ち上がった。勢いよく部屋の障子を開け放てば、そこには井上の姿がある。
「えれェ雷だな、歳さんよ」
「ったりめェだ。…源さん、近藤さんを頼む。俺ァちと腹の虫が収まらねェんでな、出掛けてくるぜ」
これ以上同じ部屋に居て、更に伊東を庇い立てる台詞を聞こうものなら、それこそ法度を破ってしまいかねない。そう判断した土方は出掛けることにした。
「あいよ、任されました」
井上は微笑を浮かべると、土方の肩をぽんぽんと労るように叩く。
綿入れを羽織、刀を差して外に出てみれば身を切るような冷たい風が吹き付けた。
それが怒りを少しずつ冷まさせる。
「どうしたモンか……」
この頃ずっと篭って書状やらと格闘していたからか、一人でこのように自由に出掛けるのは久々だった。
肩を回せば関節が鳴る。
妓を買って抱くか、それともたまには沖田のように甘味を食べに行くか。
否、この苛立ちは妓にも食にも解決出来ない。同じ立場の人間に共感でもして貰わないと、気が狂いそうだ。
そう思った瞬間、土方の足はある方向に向いていた。そこは山南の休息所である。途中で饅頭を手土産として調達した。
「…呼ばれもしねェのに来ちまうと迷惑かね」
「どちら様、どす?」
そこへ鈴の鳴るような凛とした声が聞こえる。ハッと顔を上げると、そこには明里が立っていた。
遊女時代の華やかな美しさはなりを潜め、代わりに奥方姿の素朴な艶やかさがある。