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左手の魏の陣営は変わらずだが、さらにその北側に居る夏候軍を含めた全てを包囲して、多数の蜀軍旗が靡いているではないか。半ば偽兵ではあるが、この衝撃は大きいだろう。何せこちらには俺がいる、どこかで大兵力を動員してきた可能性は充分あるからな。
徐晃としてはここで黙って押しつぶされるわけには行かない、包囲を破り一先ず距離を置こうとするだろう。或いは鐙将軍の本陣を陥落させる。だがその手は俺が出てきたことで不能になってしまったわけだな。
金属を打ち合わせる音がこの中腹にまで聞こえてきた。威嚇の為に蜀兵が盾と矛をぶつけて大声をあげている。目に見えて分かるほどの動揺が魏軍に行き渡る。
「敵地で大軍に international school kindergarten hong kong 囲まれ威圧されているんだ、平静でいられるのは一部だろうな」
上手い事俺という存在を利用してのけたか、一杯食わされたな、あの夜襲がこの下準備だったとは。
「手柄の横取りは好きではないが、役どころを与えられているようだ、本陣も移動するぞ。李項、重装騎兵を横に並べろ」
「御意! 鉄騎兵で横陣を形成しろ!」 中領将軍が大声で優先命令を下すと、本陣全体が鉄騎兵を活かすための一つの動きをしてうねりだす。二列目には重装歩兵、三列目には弩兵が控えて最強の布陣を見せつけた。脇を固めるために軽騎兵が両翼につくと李項がこちらに視線を送って来る。
「進め」
「前衛進軍! 全軍声を出せ!」
山の中腹から平地に響く声に土煙を立ち上げている鉄騎兵、朝日に輝く重装兵が殺意を持って魏兵に迫る。どこからともなく野外に屯していた魏兵が後退を始める、最初のうちはそれでも秩序を保っているように見えたが、鉄騎兵が迫るにつれて背を向けて逃げ出していった。
魏が支配している郷城は門を閉ざしていて、撤退して来る部隊を受け入れようとはしない。弱気が伝染するので敗走する部隊を受け入れないのは戦術の常識だ、だが味方が拒否したならその部隊は更に遠くへ逃げるしかない。
いつしか多くの魏兵が戦わずに逃げ出す事態に陥ってしまう。夏候軍は北部の包囲を切り開いて逃げていくが、徐晃の本隊は殿を引き受けて出来るだけの兵を逃がそうと奮戦している。
「戦場での手柄まで奪うなよ、戦闘には参加せんで構わん、そこらで足を止めて置け」
「はい、ご領主様!」
適当な平地で進軍をストップさせると睨みを効かせるだけで手を出さない。戦わずに勝てるようになれば一人前だな、今回の功績は鐙将軍のものだ。敗残兵を無視して居残る徐晃の本陣に部隊が集まる。 二時間も競り合いが続くと急に戦いの音が静かになった。鐙将軍の軍旗を持った使者が徐晃将軍の陣へ入って行く。降伏勧告の使者か、だが拒否するだろう。勇敢な男だった、徐晃、敵ながら尊敬に値する戦士だ。
少しすると使者が出てきて鐙将軍の本陣へ戻る。太鼓が叩かれると再度攻撃が開始された、今度は一時も手を抜かず苛烈に攻め続ける。いつか蜀軍の輪が狭まって行き、ついには魏の軍旗が倒れ勝鬨が上がる。
「この家は、もてなすために豚を大量虐殺するかと思えば、眠れない孫娘のために羊を増やしてみたり」
いや、あの豚、おばあちゃんが虐殺してきたんじゃないんですけど……、
と思ったとき、蓮太郎が振り向き、笑って言った。
「お前は実家での愛には恵まれなかったかもしれないが。
充分愛されてるな」
ホッとしたように言う蓮太郎に、幼兒教材 なんだかちょっと泣きそうになってしまった。
たまたまコンパで一緒になっただけの。
仮の愛人契約を交わしただけの私なんかのことをそんなに心配してくれるなんてと思ったのだ。
……でも、なんだかかんだで、この人やさしいから、誰に対してもこうなんだろうな、とも思う。
「井戸に冷やしてたスイカ、そろそろ冷えたんじゃない~?」
と梢の声が聞こえてきた。
蓮太郎が張り切る。「よしっ。
幽霊女とスイカを引き上げるかっ」
「幽霊女は引き上げなくていいですよ……」
井戸の中に置いといてください、と唯由は苦笑いしながら、蓮太郎について行った。
浴衣といえば花火だ、と梢が言うので、みんなでちょっと早い花火を楽しんだあと、蓮太郎が帰ると言い出した。
「なによ。
泊まっていけばいいのに。
なにしに来たのよ」
そう梢に言われ、唯由は、
……ほんとうに、なにしに来たのでしょうね、我々は、
と思っていた。
練行に挨拶をしたあとは、美味しくスイカを食べ、うさぎを眺め、昼食を食べ、うさぎを眺め、屋敷を散策し、羊を眺め、うさぎを眺め、夕食を食べ、うさぎを眺め、花火をして――
一足早い夏休みを満喫した。
「お世話になりました。
ありがとうございました」
と頭を下げる蓮太郎に残念がりながらも梢と雅代は、
「まあ、二人きりの方がいいわよね」
「そうですね。
引き止めるのも野暮ですよね」
と言って笑い合う。
……なにも野暮ではありませんよ。 蓮太郎は近くにあったうさぎ小屋に向かって、
「世話になったな」
と言っていたが、なにも世話をしていないうさぎは、寝てるか、はむはむしてるか、突っ立って、はむはむしてるかで。
相変わらず、人の話を聞いているのかいないのかよくわからなかったが。
まあ、可愛かった。
蓮太郎も会話が通じていないのはわかっているようで。
「……うさぎの頭の中、宇宙人並みに想像できないな。
なに考えてるんだろうな」
と呟いていた。
いや、あなた宇宙人の頭の中、想像したことあるんですか、と思う唯由を振り向き、蓮太郎が言う。
「まあ、お前の頭の中は、うさぎや宇宙人以上にわからないが」
なんですか、その言ったもんがち。
私もあなたの考えてること、さっぱりわかりませんよ~と思っている間に、蓮太郎は梢たちに頭を下げて言っていた。
「ぜひ、一度、うちにも遊びにいらしてください。
雅代さんも」「ありがとう。
また来てね。
唯由をよろしく」
と梢が言うと、蓮太郎は、
「はい。
大事に扱います」
と私は実験器具か、というようなことを言っていたが、梢たちは笑っていた。
ライフルじゃなく、巨大な懐中電灯を担いだ練行が、
「夜道は暗いからこれを持っていきなさい」
と言う。
唯由たちがタクシーではなく、最終のバスで帰ると言ったからだ。
「だ、大丈夫だよ。
スマホのライトがあるから」
と唯由は重すぎる祖父の愛を断った。
それ、懐中電灯っていうより、サーチライトっていうか。
バスに持って乗ろうとしたら、たぶん、バズーカかなにかと間違われて乗車拒否される……と唯由は思っていた。「ありがとう、おじいちゃん。
また来るね~」
「お母さんに、たまには顔を出せと言っておいてくれ」
「……いや~、お母さん、私も滅多に見かけないんで」
と希少動物のように母を言い、じゃあ、とみんなに手を振った。
広い道に向かって坂を下る。
しばらく行って振り返っても、まだ何処からともなく湧いてくる人たちとともに、みんな手を振ってくれていた。
「……お前のじいさんちは二、三人知らない人が混ざって住んでてもわからないな」
「座敷童とかも混ざってるかもしれないですね」
そんなことを言いながら、虫の音の響く真っ暗な田舎道を二人で歩く。
スイカを食べたあの川の音がすぐ横に聞こえていた。
「星がすごいな」
蓮太郎が空を見上げる。
いや~、極楽極楽、という顔をしている彼女の前に立つ。
「紗江さん」
「あー、证券公司 れんれん」
と笑顔を向けてきた紗江に言う。
「お疲れでしょう。
肩でもお揉みしましょうか」
「えっ? いいよっ。
今、機械が揉んでくれてるから」
「珈琲でも淹れましょう」
「どうしたの、れんれんっ。
誰か来てーっ。
れんれんが壊れた~っ」
と紗江はマッサージチェアから身を起こす。
その頃、唯由はちょうど誰もいなかったエレベーターの中で、ひとり悩んでいた。
まず真っ先に褒めるべき、雪村さんのいいところって何処かな?
……なんか考えれば考えるほど、何処もいいところな気がしてきて選べないっ、と苦悩していたとき、ちょうど扉が開き、作業着姿の男が乗ってきた。
「お疲れ様ー。
どうしたの? 蓮形寺さん」
苦悩するクマのように頭を抱えている唯由を見て、驚いたように言う。
いつぞや、社外の友人たちとコンパしてるところを見られた村井だった。
「あっ、お疲れ様ですっ」
と慌てて挨拶すると、
「お疲れ。
なに悩んでるの?
あ、もしかして、この間のコンパのとき、手をつないで帰ってた人のこととか?」
と笑って言ってくる。
そこで、唯由はふと気がついた。
「……村井さん。
そういえば、あのとき手をつないでた……
いや、私の手を引っ張ってた人、うちの会社の人だったんですけど」
「えっ? そうなの?」「雪村さんって言うんですけど、ご存知ありませんか?」
村井は考えるような顔をし、
「えー、知らないなあ」
と言う。
エレベーターだからというわけではなく、足元が不安定になったかのように唯由は感じた。
もしや、ここは異世界?
雪村さんが存在しない世界とか。
蓮太郎の笑顔や真顔や脅しつけている顔が走馬灯のように浮かんでくる。
いや、笑顔意外、ロクな表情ではないので、懐かしんでいいのかわからないのだが……。
でもでもっ、
『蓮形寺』
と呼ぶ雪村さんの声まで頭にまざまざと浮かぶのにっ。
ここが異世界でないのなら、雪村さんは実は研究棟に住んでいる霊っ!?
……まで唯由の思考が飛んでしまったとき、道馬が乗ってきた。「お疲れ」
「あっ、道馬さん。
雪村って人、この会社にいましたっけ?」
と村井が訊いている。
「……雪村?
雪村蓮太郎か? 研究室の」
あ~、と村井が声を上げる。
「研究室の。
なんだ、研究棟の人なら知らないよ。
あの人たち、あんまり外出てこないから」
と村井は唯由を向いて笑った。
「紗江さんなら知ってるけどね。
結構ウロウロしてるし、美人だし。
でも……」
『でも』の続きが気になったが、村井と道馬は目を合わせて笑っている。
「『でも』、だよな~」
と言って。
なっ、なんなのですかっ、気になるのですが、と唯由は思ったが、二人は、ははは、と笑い、話を終わらせてしまった。 村井が、
「じゃあ、蓮形寺さん。
そうだ。
うちの連中が今度秘書課の人とコンパしたいって言ってたんだ。
今度、よろしくね」
と言って道馬にも挨拶し、降りていく。
おう、と道馬は村井に手を上げたあとで、こちらを向いた。
「いや~、君、よく蓮太郎と付き合ってるね~」
「は?」
「いい奴なんだが、変わってるから。
じゃあ、蓮太郎をよろしくね。
……蓮太郎、月子ちゃんとは見合いしないみたいだし」
と言って、にんまり笑う。
「月子ちゃんって、おとなしいよね」
ええっ? 誰がですか、と口から出そうになった。「……そ、そうなんですか」
「いや、そうなんですかはおかしいよね」
と言う道馬と話していて降りそびれた。
では、失礼します、と降りる道馬に頭を下げたあとで、
あっ、私、今のところで降りるんだったと気がついたのだ。
そのまま社長室のフロアまでエレベーターが呼ばれて行ってしまう。
ひっ、誰が呼びましたっ!?
と焦った瞬間、扉が開いた。
社長がいた。
でっぷりとして貫禄はあるが、人の良さそうな社長だ。
唯由は社長に頭を下げ、エレベーターの端に避ける。
社長の背後にいた秘書のが、
「一階」
と唯由に言う。
唯由は一階のボタンを押し、開くのボタンを押した。
うむうむ、という感じに笑顔の社長が乗ってくる。
梅は艶やかな目を伏せて小さく震えている。
ーー恋…お梅さんも…?
詩はボーっと梅を見つめる。
ーーなんだろう?
何か、胸か、のどのあたりが変…
詩は自分の胸に手を当てた。
なんだろう?これは?
ああ、『苦い』?
ーー表現するならきっとそれが一番近い。
でも、なぜ?
信継様が誰を選ぼうと、誰と同衾しようと、私には全く関係ない。ーーはず。
『絶対に桜は俺の嫁にする。
”安心”なんかさせないからなッ』
洞窟で一番過ごした帰りの言葉。
そんな言葉がふと詩の頭の中に聞こえ、詩は首を振った。
ーー父上が珍しいのであって、殿方とは複数の女子を求めるものーーこの高島の殿のように…
信継様とて例外ではない。
それに、どうであってもここから出たい私にはなおさら関係ないことーー
「えっ…お梅さん、それは…。
…失礼ですが、誠なのですか…?
信継さんは…」
緋沙の目が狼狽えて、詩を見つめる。
梅は袖で顔を覆って、泣いているようだった。
「…お梅さん、わかりました」
詩は微笑んで頭を下げた。
「…私は大丈夫ですから
お2人とも本当に、幸せになって下さい。
今までありがとうございました」
それは、心からの言葉だった。
それから詩は緋沙に深く頭を下げた。
「緋沙様…私の大切なお2人です…
何卒、今後ともよろしくお願い申し上げます」
「え…ええ…」
緋沙は落ち着かない顔でそう言った。
ーーーーー
夜。
2人きりになると、緋沙は神妙な顔で詩に言った。
「詩姫…
お梅さんは、取り敢えず今後、信継さん以外、誰の相手もさせないように後宮の責任者に指示しました」
「ありがとうございます」
「それからね…
後宮の者に聞いたのですが…」
「はい」
「信継さんのこと…本当のことでした」
「…」
火鉢の炭がパチッと音を立てた。
「後宮の奥に『特別室』というのがあって
そこで過ごされたそうです…
1日目は…朝まで。
2日目は…ほら、詩姫をここに連れて来られたあの日です」
「はい」
詩は落ち着いて聞いていた。
動揺を隠せないのはむしろ緋沙の方だった。
「でもね…私には信じられなくて」
緋沙は小さくため息をついた。
「信継さんの性格上…そういう」
緋沙は慌てて言う。
「あ…決してお梅さんを疑っているわけではないのですよ」
詩は微笑んで頭を下げた。
「何とも思っておりません」
「…」
緋沙はかなしそうに詩を見つめる。
「…あなたが…私の娘になってくれたら嬉しいのに」
「…」
「…私は、子を成せない体なのです」
「…っ」
詩は驚いて、緋沙を見、それからゆっくり視線を伏せた。
「継室ですから…立場上、信継さんの母ではあります。
何年たっても、殿のお子を授かれない…それがわかっても、殿は私を、」
火鉢の炭が静かに崩れる。
「高島の殿はあんな人ですが…優しさはあるのです」
詩は静かに頷く。
「…詩姫、信継さんが戦から戻るまで待ってはいただけないかしら…
なんだか、違うと思うのです。これは女の直感です」詩は小さく首を振って、畳に手をついた。
「…過分なお言葉、ありがとうございます…
申し訳ありません。
警備の手薄な今…立ちたいと思います」
「…」
「…緋沙様には、ご迷惑をおかけしません」
緋沙は唇を噛んで、悲しそうに詩を見た。
「それでも詩姫…そなたに当てなどないのでしょう」
「…」
詩は黙って微笑んだ。
「どうあっても、行かれるのですね…。
もしよければ…私の実家…多賀の家をお尋ねなさい」
「…え…」
多賀家といえば、小さいが、由緒正しい血筋の家柄だ。
今は高島の後ろ盾を得ている国だ。
緋沙は決意を決めたように、凛とした表情で詩に告げる。
「文を書きます。…私の兄を頼りなさい」
「いえ!…それでは、ご迷惑をおかけします…」
緋沙は言うが早いか文机でサラサラと文字をしたためた。
「これを。共も付けましょう」
「いえ、本当に、大丈夫です」
「危険ですから」
詩は微笑んで緋沙を見つめ、文を受け取る。
畳に手をついて、ゆっくりと頭を下げた。
「…本当に、お心遣いありがたく感謝いたします。
…不躾ですが、1つだけ…お願いしたいことがございます」
「何でも言ってください」
「…銀を…馬の銀を一緒に連れて行ってもよろしいでしょうか」
緋沙は目を見開いた。
「詩姫は1人で馬に乗られるのですか」
詩は嬉しそうにニコッと笑う。
「はい。私、銀が大好きです。銀の背に乗れば、空を飛ぶように駆けてくれます」
緋沙はにっこり笑った。
「…わかりました。銀のことも手配しましょう」
ーーーーー
「あ…」
夜半。驚きに目を見開く。
緋沙の采配で黒い忍び装束に身を包んだ詩の前にーー牙蔵の姿があったのだ。
「え…牙蔵さん…?」
緋沙はにっこりと笑う。
「牙蔵が一番腕が立つし信用できますからね。
牙蔵、頼みましたよ」
「…」
牙蔵はかすかに微笑んで頷き、緋沙を見た。
「…何かあったら…
何もなくても、帰ってきなさい。
私はもう…あなたを娘のように思っているのだから」
潤んだ瞳で詩の手をしっかと握る緋沙。
詩もこぼれそうな涙をこらえて緋沙を見上げる。
「…何から何まで…お世話になりました…」
緋沙は何度もうなずいて、ぎゅうッと詩を抱きしめた。
それから名残惜しそうに、ゆっくりと腕を緩める。
「さ、もうお行きなさい。
…牙蔵」
牙蔵は頷き詩を促す。
素早く緋沙の部屋の戸を閉め、2人で玉砂利の上に降りた。
ーーと思ったら、牙蔵の腕が詩の腰にまわってあっという間に木の上に飛んだ。
「…っ」
詩の悲鳴は、それをわかっていた牙蔵の手の中にくぐもった。
「…あのねえ」
「少し話したい。」と第七師団長のクービルがボーンの所へやって来たのは、そんな中のコデコトマル平原駐屯の夕刻であった。クービルは介添えとして連隊長の一人サンテーラを伴っていた。介添えを伴ったのは、謀叛の密議等とあらぬ疑いを受けた場合の用心である。ボーンは顔を合わす都度、殺気とまでは言わないが強い圧を送って来るこの剣の達人と席を共にするのは気が進まなかったが、断るわけにも行かず自分も副官を同席させて受けた。「同じ十二神将の馬鹿が不快な思いをさせているだろう。済まぬな。」とクービルは切り出した。「分かってるのなら、止めさせてもらいたいな。俺の手下にも血の気の多いのもいる。部隊の周辺で胡乱な動きをする奴を見付けたら、どんな間違いが起こるか分からん。王女軍の間者と間違える事だとて有り得るからな。」忠告はしたのだが、ナーザレフは一応教祖、私は弟子の身。限界がある。」「良く分からんが・・・・・・。international high school その詫びを言いに来たのでもないだろう。本題を聞こう。」「そうだな。では、尋ねる。前回の会議で、貴公の発言により貴族軍との衝突を回避できたのであるが、その真意は?」「真意?」「そうだ。コノバックの言うように貴族達とは最終的には利害が衝突するから、あの時貴族軍を攻撃する選択肢も有ったと思うのだが。」前回の師団長を中心した会議において提案が太子ゴルゾーラに採用されて以降、ボーンの身辺に蠢く嫌な連中が発生していた。腕利き諜報員として鳴らしたボーンである。当人も配下もすぐにそれに気付いたが、ボーン指示の下素知らぬ顔をしていた。知らぬ顔はハンベエの専売特許ではないようだ。身辺を窺っているのはナーザレフ配下十二神将のタンニルとその配下であった。この人物はボルマンスクでイザベラの尾行に迂闊にも気付かなかった、忍びとしては二流の腕前であったが、教祖ナーザレフにはどうやらそれを見抜けるほどの人物眼は無いらしい。クービルに釘を刺されたにも拘わらず、ボーンの周辺を嗅ぎ回らせて隙あらばの指示を出していた。「それも一策だが、クービル殿も俺の提案に反対しなかったじゃないか。」「まあ、悪くない策だと思ったからだが。」「じゃあ、別に問題ないじゃないか。」「もし、我が教祖ナーザレフが言ったように、ノーバーとハンベエが通謀していて、死んだはずのモスカ夫人がその背後で画策しているとしたら、どうなる?」とクービルは質問の向きを変えた。この質問にボーンは即答しなかった。ボーンはそもそもモスカの生存を否定している。そして、ナーザレフの説明を聞き、変装の名人イザベラの工作であるとの思いをより強くしていた。第一、良く知るハンベエの性格から考えて、モスカ夫人と通じる等の事は噴飯物であった。だが、それをこのナーザレフ配下の十二神将クービルに率直に教える事には危険なものを感じていた。目の前に居るクービル自体には剣の達人としての威圧感が有るだけで、敵意までは見受けられない。しかし、その背後にいるナーザレフからは何やら偏執狂的な憎悪を向けられている事は疑いない。(ナーザレフの憎悪は、俺がラシャレー閣下に推薦された事と無関係では有るまい。それ故に、俺の進言はどうあろうと排除しようという妄念に取り憑かれているのだ。) 迂闊な事を言えば、どう曲解して太子に吹き込まれるやら分かったものではない、と身構えざるを得なかった。「ナーザレフ殿の言うことが真であっても、クービル殿も言われていたように、あの道に貴族軍を追い込んでしまえば、我等と王女軍の合戦の妨げにはならないと思っているが。」 ややあって、ボーンはそう答えた。