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いや~、極楽極楽、という顔をしている彼女の前に立つ。
「紗江さん」
「あー、证券公司 れんれん」
と笑顔を向けてきた紗江に言う。
「お疲れでしょう。
肩でもお揉みしましょうか」
「えっ? いいよっ。
今、機械が揉んでくれてるから」
「珈琲でも淹れましょう」
「どうしたの、れんれんっ。
誰か来てーっ。
れんれんが壊れた~っ」
と紗江はマッサージチェアから身を起こす。
その頃、唯由はちょうど誰もいなかったエレベーターの中で、ひとり悩んでいた。
まず真っ先に褒めるべき、雪村さんのいいところって何処かな?
……なんか考えれば考えるほど、何処もいいところな気がしてきて選べないっ、と苦悩していたとき、ちょうど扉が開き、作業着姿の男が乗ってきた。
「お疲れ様ー。
どうしたの? 蓮形寺さん」
苦悩するクマのように頭を抱えている唯由を見て、驚いたように言う。
いつぞや、社外の友人たちとコンパしてるところを見られた村井だった。
「あっ、お疲れ様ですっ」
と慌てて挨拶すると、
「お疲れ。
なに悩んでるの?
あ、もしかして、この間のコンパのとき、手をつないで帰ってた人のこととか?」
と笑って言ってくる。
そこで、唯由はふと気がついた。
「……村井さん。
そういえば、あのとき手をつないでた……
いや、私の手を引っ張ってた人、うちの会社の人だったんですけど」
「えっ? そうなの?」「雪村さんって言うんですけど、ご存知ありませんか?」
村井は考えるような顔をし、
「えー、知らないなあ」
と言う。
エレベーターだからというわけではなく、足元が不安定になったかのように唯由は感じた。
もしや、ここは異世界?
雪村さんが存在しない世界とか。
蓮太郎の笑顔や真顔や脅しつけている顔が走馬灯のように浮かんでくる。
いや、笑顔意外、ロクな表情ではないので、懐かしんでいいのかわからないのだが……。
でもでもっ、
『蓮形寺』
と呼ぶ雪村さんの声まで頭にまざまざと浮かぶのにっ。
ここが異世界でないのなら、雪村さんは実は研究棟に住んでいる霊っ!?
……まで唯由の思考が飛んでしまったとき、道馬が乗ってきた。「お疲れ」
「あっ、道馬さん。
雪村って人、この会社にいましたっけ?」
と村井が訊いている。
「……雪村?
雪村蓮太郎か? 研究室の」
あ~、と村井が声を上げる。
「研究室の。
なんだ、研究棟の人なら知らないよ。
あの人たち、あんまり外出てこないから」
と村井は唯由を向いて笑った。
「紗江さんなら知ってるけどね。
結構ウロウロしてるし、美人だし。
でも……」
『でも』の続きが気になったが、村井と道馬は目を合わせて笑っている。
「『でも』、だよな~」
と言って。
なっ、なんなのですかっ、気になるのですが、と唯由は思ったが、二人は、ははは、と笑い、話を終わらせてしまった。 村井が、
「じゃあ、蓮形寺さん。
そうだ。
うちの連中が今度秘書課の人とコンパしたいって言ってたんだ。
今度、よろしくね」
と言って道馬にも挨拶し、降りていく。
おう、と道馬は村井に手を上げたあとで、こちらを向いた。
「いや~、君、よく蓮太郎と付き合ってるね~」
「は?」
「いい奴なんだが、変わってるから。
じゃあ、蓮太郎をよろしくね。
……蓮太郎、月子ちゃんとは見合いしないみたいだし」
と言って、にんまり笑う。
「月子ちゃんって、おとなしいよね」
ええっ? 誰がですか、と口から出そうになった。「……そ、そうなんですか」
「いや、そうなんですかはおかしいよね」
と言う道馬と話していて降りそびれた。
では、失礼します、と降りる道馬に頭を下げたあとで、
あっ、私、今のところで降りるんだったと気がついたのだ。
そのまま社長室のフロアまでエレベーターが呼ばれて行ってしまう。
ひっ、誰が呼びましたっ!?
と焦った瞬間、扉が開いた。
社長がいた。
でっぷりとして貫禄はあるが、人の良さそうな社長だ。
唯由は社長に頭を下げ、エレベーターの端に避ける。
社長の背後にいた秘書のが、
「一階」
と唯由に言う。
唯由は一階のボタンを押し、開くのボタンを押した。
うむうむ、という感じに笑顔の社長が乗ってくる。