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結局誰とも遊べず終いで三津はとぼとぼ家路についた。
「ただいま~。」
「お帰り,どないしたん。元気ない。」
帰って来た三津が浮かない顔をしているからトキが優しく頭を撫でた。
「そう?いやぁ土方さんに会ったんやけどね,もしかしたら怒らせてもたかも。」
何故突き飛ばされたのか分からない。【脫髮】頭瘡會導致脫髮?即看頭瘡成因、預防及治療方法 @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 :: 胸の前で腕を組んで首を傾げた。
「何か失礼な事したんちゃうの?」
「そんな事…。」
していない。断言できる。だって失礼な事をしてきたのは土方だ。
『いきなり現れて拳骨するし,頭鷲掴みにしてぎゅってしてきたし,それに勝手に抱き締めてきて…。』
突き飛ばされた。そこではっと気付いた。
『えっ待って,私土方さんに抱き締められた!?』
手で頬を覆って目を見開いた。何故抱き締められたのか経緯が分からない。
まずあれは抱き締められたと言えるのかと目を泳がせ狼狽えた。
「三津どしたん?何か思い出したん?怒らせてもたんなら早いとこ謝りに行きや。」
「何もない!何もない!気のせい!!」
「ふーん。そやさっきあんた訪ねて男の人来はった。」
「男の人?」
吉田だろうかと思ったがそれなら吉田と言うだろう。思い当たる節もなく瞬きの回数が増える。
「そう,品のいい色男!」
惚れ惚れしたわとトキの顔がにやけた。
「色男…。」
『まさか…ね。だって来るはずない…。』
色男と言われて思い浮かぶのはただ一人。だけど未だかつて直々に店を訪ねてきた事はない。
「その人いつ来たん?」
期待はしないようにしようとしても馬鹿正直な心臓は大きな音を立てる。
「いつやったかな?あ,でも明日出直す言ってはったわ,せやから明日はおりや。」
それを聞いて首を激しく縦に振った。
『桂さんやったらどうしよう…。』
だとしたら嬉しすぎる。
「その人何の用かは言わんかった?」
「伝言あるならって聞いたけど出直すって言わはって帰ってったからなぁ。」
「な…何の用やろなぁ…。知り合いに色男なんておらんで。」
平静を装ってるつもりだけども下手な芝居だなと自覚していた。
また今日も眠れそうにない。やっぱりよく眠れなかった。何度も欠伸を噛み殺した。
睡魔が絶え間なく襲ってくるけど,それと同時に緊張感にも襲われた。果たして誰が来るのか。
いつ来るかも分からない正体不明の色男を待ち続け,やがて昼を過ぎた。
『ホンマに来るんかな…。』
小さく溜め息をついた時だった。
「こんにちは。お三津さん?」
「はいっ!」
急に声をかけられ上擦った声で返事をした。その声が面白かったのか声をかけてきた青年はくすりと笑った。
『……誰?』
これが昨日訪ねてきた色男なのか?
三津は目を丸くして青年と見つめあった。
「こんにちは,私は伊藤と申します。今日はこれを預かって来ました。すぐに読んでください,表で待ってます。」
にっこりと笑うと三津に文を押し付けて店の外へ出た。
不思議に思いながら文を開いてその内容に心音が跳ね上がった。
「おじちゃんおばちゃんちょっと出掛けてくる!」
「えっ?」
文を懐にしまい込むと,二人の返事も聞かず三津はたすき掛けと前掛けを外して外へ飛び出した。
「おやお早い,では参りましょうか。少し後ろをついてきて下さいね。」
伊藤と名乗った男は三津を先導して歩き始めた。
三津は黙ってその後について歩いた。
二人の間に会話はない。三津がついて来ているのか伊藤がちらちら確認するくらい。
すると突然伊藤が立ち止まったので三津も立ち止まる。
ちゃんと距離を保っていたが立ち止まった伊藤が手招きをする。
三津が小走りで駆け寄ると伊藤はふっと吹き出した。
「本当について来た。罠だと思わないんですか?」
「えっ!」
そう言われたらそうだ。
のこのこ出て来た己を恥じて頭を抱えた。
「すみません冗談です。ちゃんと案内しないと怒られるのでついて来て下さい。それと本当は貴女と話すのを禁じられてるんでこの事は内密にお願いしますね。」
またもにっこりと笑い,おいでと手招きをした。
少し疑いの眼差しを向けながらじりじりと伊藤に近付いた。
「……何で私と話したらアカンのですか?」
怪訝そうな顔で見上げた三津のその問いに伊藤は口を閉ざして考え込んだ。
『言ってもいいのかな…。』
をふって追い払う。
野村がおれの隣で胡坐をかきかけたが、中途でやめて立ち上がった。
旅籠内の偵察と、相棒の様子をみてくるという。いいおえるまでには、いたずら盛りの子ども数名が穴をあけまくったような障子を開け、でていってしまっている。
子どもらというと、頭瘡脫髮 市村と田村は元気にしているだろうか。流山で別れたきりだから、まだ一か月も経っていない。だが、あまりにも衝撃的な事案が起こりすぎているので、だいぶんとながい間会っていないような錯覚に陥ってしまう。
あのいたずらっ子たちにはやく会いたい。
おれは一人っ子で、しかも親戚づきあいがなかったので、正直、子どもは苦手であった。が、いまはちがう。
ってか、かれらは子どもというよりかは、いっしょにつるんでるって気がしてならない。
ぶっちゃけ、おれもかれら同様子どもってわけだ。
「ぽちは、おれたちとおなじ屋根の下にいるのが怖いんじゃないのか?」
その永倉の言葉に、子どもらのがかき消された。同時に、現実にひきもどされてしまう。
『ぽちは、おれたちとおなじ屋根の下にいるのが怖いんじゃないのか?』
いまの問いは、さきほどかれ自身がつぶやいた言葉の詳細らしい。
いったい、どういう意味なのか?
永倉の問いが、頭のなかをぐるぐるまわっている。「どういう意味なんです?この部屋っていうか、この旅籠がいやってわけじゃないっていうんですか?」
「あのなぁ、主計。おまえ、もうちょっとの様子を探った方がいいぞ。だれかさんみたいに、あらさがしばっかするのもどうかって思うが、おまえは人がいいっつーか、やさしいっつーか、あまりにもを背けすぎてるきらいがある」
「ええ?そ、そうでしょうか?おれは自分ではよくみているつもりなんですが……」
「まちやがれ、新八。だれかさんってのは、いったいだれのことなんだ、ええっ?」
「自身でよくわかってるんじゃないか、土方さん。それは兎も角、おなじ屋根の下で眠れないどころか、いっしょにいるのも怖いってんだったら、相当なものだ。まぁ、たまがいないから、余計に怖いんだろうが」
「気の毒なことですな」
永倉の推測に、島田が同意した。
そこではじめて、そのことに気がついた。
俊春のトラウマは、そばにだれかいることすら、具体的には狭い空間でがいることにでさえ苦痛になっているんだ、ということに。
「くそったれ。事情がわからねぇからな。おれたちにはどうしようもできねぇ」
副長のつぶやきである。つぶやいてから、切れ長のを窓のほうへと向ける。
窓も、かろうじて桟におさまっているという感じである。地震どころか、体格のいいが立ったり座ったりするだけで、その振動ではずれて下に落っこちそうだ。木製のにも、だれがどうやったのだろう。傷だけでなく、穴が無数にあいてたりしている。
「なんとかならぬのでしょうか?」
島田も、その副長のを追う。
階下から、飯盛り女たちの呼び込みの声がきこえてくる。街道は旅人がすくなかったが、それでもこうして満室なところをみると、けっこう旅を、している、あるいは江戸から他国へと流れてゆく人もおおいのだろうか。それとも、近隣の好き者たちがやってくるのだろうか。
「自身でやっておいてかようなことを申すのもなんだが、寛永寺での一件、あのときのぽちの怯えたが、どうにも忘れられねぇ。それから、このまえの荒れ寺で新八に殴らせたときのもな」
副長はおれたちとを合わせようとせず、ぽつりとつぶやいた。
「あいつらに責を負わせたくなかった。それしか頭になかった。そのためには、おれたちのだれかが直接制裁を加えるほうが、あいつらもちっとは心の重みが減るかとかんがえたんだ。たまには有効だったが、それがそのままぽちにも通用するかっていうと……。甘かったな。浅慮だった」
「いや、土方さん。あれはあれでよかったんだよ。近藤さんの件に関しちゃ、あいつらのなかでまだ居心地の悪い想いが残っていたとしても、それが直接おれたちから離れる理由にはなるまい。ぽちはこれまで巧妙に隠していたんだ。だれもあそこまでとは想像もできまい」
意外にも、副長は反省しまくっている。それを慰める永倉自身も、かなり動揺しているようだ。
例の寛永寺での出来事も、先日の荒れ寺での出来事も、俊春の怯え方は異常なほどであった。永倉がいったように、だれも想像できることではなかった。
さきほど副長がいったとおりである。過去になにがあったのか、まったくわからない。あくまでも、かれが子ども時分に性的虐待を受けたであろうって推測をしているにすぎない。
真実は、わからないのである。
だからこそ、チャンスだと思ったときには、俊春に尋ねようと躍起になっている。が、俊春は、おれのダダもれの意図をよんでいる。これまでチャレンジしたすべてが、巧妙なまでにかわされている。
しかも、相棒まで邪魔する始末である。こうなったら、おれにはムリっぽい。
副長や永倉が尋ねれば、かれは素直に打ち明けてくれるのだろうか。
しかし、個人情報というよりかはかなりデリケートな問題である。いくら上司や先輩といえど、そうやすやすと尋ねられるものではないだろう。
かといって、このままではおれたちも気まずいし、本人もつらいはずである。
俊冬がいれば、俊春も心強いにちがいない。それに、もしかすると俊冬なら事情を打ち明けてくれるかもしれない。
俊春は兄貴のめっちゃ悪口をいいまくっていたが、こちらがひくほどのブラコンであることは間違いない。
本当は、めっちゃ尊敬していて大好きなはずである。おそらく、であるが。
『なんとかできぬのか?』
島田の問いは、ここにいる全員の想いを代弁したものである。
「なんとかしてやらねばな」
「ああ……。すまないな。おれは、なにもできそうにない」
副長は、いまだ窓の方へ
をみている。
たしかにすごい。ゲームソフトにでてくるような、青龍刀をふりかざした関羽である。フィギュアといってもいい。あの立派な髭まで再現されている。あの時代、ともにのもとで戦い、みつめてきたように、飴細工の関羽はいきいきとしている。
うーむ。肺癌第四期平均壽命 異世界転生というよりかは、俊春の転生前はあの時代の武将だったのかも。
「おおっ!こいつぁすげぇ。かっこいいじゃねぇか」
そして、この時代に生きる者のフィギュアができあがった。
俊冬から手渡され、自分を模した飴細工をみ、恥ずかしげもなく「かっこいい」を連発する副長。
「すごい。似ている」
斎藤も称讃している。そこは、かっこいいところではなく、似ているを強調するところがビミョーであるが。
そのあと、双子はつくりつづけ、みな、大喜びしていた。
斎藤には「鬼神丸」のフィギュアを、島田には単純に飴の棒を大量につくり、そして、野村には・・・。
俊冬がせっせとつくるその横で、野村はわくわくしながらみつめている。
かれのリクエストは、「セクシー・ガール」。さすがは、現代っ子にしてバイリンガルな野村である。そして、それにさして疑問の一つもかえさずつくりはじめる俊冬。
「おおおおっ!」
その出来栄えに、興奮状態の男たち。厳密には、成人男子たち。
すでに陽は暮れ、だれかが篝火を準備してくれたらしい。
その篝火の光を吸収し、飴細工がきらきらしている。
「ジーザス。セクシー・ダイナマイト・バディ!」
ちょっ、野村・・・。
もしかして、」
市村と田村が、なにげに現代っ子っぽく飴細工を表現する。
たしかに、ナイスバディ、豊満な真っ裸の女性が・・・。
女たらしもそうでない者も、われもわれもとみたがる。村の女性陣が、それを遠巻きにみながらひそひそ話をしている。
きっと、「男はもう」と苦言をていしているのであろう。
そして、やっとおれの番に・・・。
「なんで、八郎さんなんです?」
伊庭八郎のフィギュアである。どうせなら、腕や脚の関節が稼働してくれたらいいのに・・・。
俊春から手渡され、ビミョーな気分になる。
でも、これは保存版だ。あ、いや、たとえこれが犬であろうと猫であろうと、きれいな飴細工である。すぐに舐めてしまうのは、もったいなさすぎるではないか?そういう意味での保存版であることは、いうまでもない。
もっとも、それはみなおなじである。その日は、大切にもってかえったのはいうまでもない。
ちなみに、安富は馬であった。当然のことながら。 翌日、松本良順がやってきた。関東郡代の書簡を携えて。
松本にしてみれば、ちょうどいいきっかけであったのだろう。
局長をはじめとした傷病者の診察もかねての訪問である。
もちろん、みんなで歓迎する。
佐々井半十郎のことはよくわからない。旗本で、関東の代官の一人であると記憶している。
「つまり、このままここで息を潜めていろ、と?」
局長は、書簡をよみおわるとそれを副長に手渡す。それは、副長から俊冬、俊春へと順にまわってゆく。
「そういうこった。くやしいが、江戸城の明け渡しのこともある。それに、彰義隊も不穏な動きをみせてやがる。幕閣も、これ以上不安の種は抱えたくねぇんだろう」
松本は、肩肌脱ぎになった局長の肩や腕をさわりつつ、いまいましげにいう。
「よしっ。肩のほうは、だいぶんといい。まぁ、以前のように剣をふるうとまではいかねぇが、普通に生活する分には不自由はあるまい」
「これも、法眼のおかげです」
「いやいや。おまえさんが、おれのいいつけをちゃんと守ってるからだ。なぁ俊春?」
俊春ののことをしった局長は、だれよりも心を痛めた。耳朶につづき、片まで、と。それはもう、この世のおわりのように嘆いたのである。その結果、本人が手遅れだと拒否っているにもかかわらず、松本に話をし、強制的に診てもらったのである。
もっとも、それでよくなるというわけではない。結局、松本もどうすることもできず、耳朶はきこえぬままであるし、右はみえぬままである。
俊春は、松本の嫌味を口の形でよみ、真っ赤になってを膝の上に落とす。
「それで、返事はどうする?」
「潜むくらいなら、いったん江戸から陣を移しましょう。流山のほうに、昔、懇意にしていた人物がおります」
「流山?局長っ、流山って・・・」
思わず、話しをさえぎってしまった。
だめだ。流山だけは、いってはいけない。
その思いが、つい言葉になってでてしまったのである。
「主計、驚かすでない」
局長は、やさしい笑みを浮かべる。
「局長、おれも流山は反対だ。あっちはよくねぇ」
笑い声を上げながら、二人はじゃれ合う。それを微笑ましそうに桜司郎は眺めた。そこへバタバタと屯所の方から駆け寄る音が響く。
「桜司郎ーッ!」
「鈴木くーん!」
山野の低い声と馬越の少し高めの声が鼓膜を叩いた。桜司郎はそれを見るなり、腕を上げて大きく手を振る。
「八十八君、馬越君!」
三人は再会を喜び、頭髮稀疏 抱き合った。そこへドタドタと更に大きな地鳴りを轟かせながら松原がやってくる。
「鈴さん、よう戻ったのう!疲れたやろ、ん?」
「忠さん、ただいま!あの……沖田先生は?」
桜司郎の言葉に松原は寂しそうに唇を尖らせ、あからさまに落胆した。
「何や、ワシより沖田センセが気になるんかいな。此処におるで」
松原はそう言うと、自身の後ろを指さす。松原の影から穏やかな笑みを浮かべた沖田がひょっこりと顔を出した。
「沖田先生」
「よく無事に帰って来ましたね。……お帰りなさい」
沖田は一歩踏み出すと、桜司郎の頭を撫でる。約 ぶりに見る彼女は何処か大人びて見え、その手が僅かに震えた。何かあったのだろうかと勘繰る。
紆余曲折あったが、沖田との約束を果たして戻ってこれたことが嬉しくて、桜司郎は気付いた頃には目から涙を零していた。
それに気付いた沖田は慌てながら、自身の着物の袖を手元に手繰り寄せると、それで桜司郎の目元を拭う。陽だまりのような沖田の匂いが、更に彼女を安心させた。
「鈴木桜司郎、ただいま沖田先生の元へ戻りました」
目元を赤く染め、嬉しそうにそう言う桜司郎を見ていると、沖田は勘繰っていたことがどうでも良くなる。無事に戻ってきた、それだけで良いと思ったのだ。 新人隊士の荷解きも"とりあえず"の部屋振りも終わり、土方が離れの幹部棟にある自室で一息ついた頃にはすっかり夜も更けていた。
重い息を吐き出すと、首と肩を回せば鈍い音が鳴る。そこへギシギシと短い音を立てて部屋の前に立つ人影がいた。
土方は口角を上げると、その影に入るように促す。スッと障子が音を立てて開いた。
「やっと落ち着いたな。歳、お帰り」
声を聞かずとも雰囲気だけで土方が察せる男、その来訪者は近藤である。いつもは鋭い眼が緩み、大きな口とニカッと笑うと出来る笑窪が独特の愛嬌を感じさせた。
「何だよ、改まって。おう、ただいま」
近藤は土方の横に座ると、手にしていた湯気の立つ湯呑みをその前に置く。
「局長手ずから、茶を入れてくれたのかい?贅沢だな」
笑みを深くすると、土方はそれを手に取り啜った。疲れた身体に茶の苦さが染み渡る。
「いやー、参ったよ。隊士が増えることを本願寺の門主殿に一言言わねばと思って報告したら、こんな時間になっちまった」
近藤も茶を啜ると、ふうと息を吐いた。それを聞いた土方は苦笑いを浮かべる。道理で疲れているような顔をしている筈だと。
「大方、嫌な顔をされた挙句に嫌味でもかまされたか?お前さんも律儀な男だよなァ、わざわざ言いに行くなんてよ」
「あっはは、そうはいくめぇよ。余計に嫌味を言われちまうだろう」
土方の的確な指摘に、近藤はからからと笑った。だが、この近藤には門主の嫌味などは通用しない。文句も言われ慣れている上に、謝罪もし慣れているのだ。
それが大将の仕事か?と土方は口に出そうとして止めた。これが近藤の良さなのである。嘘が無くて、吃驚するくらいに人が良くて性根が真っ直ぐな男だった。この人には絶対勝てない、と土方は横目で近藤を見ながら改めて思う。
そんな視線に気付いたのか、近藤は土方を見返すとニヤリと笑んだ。
「それより歳。お前さん、ここを発つ前よりずっと楽しそうな
「もし……、あんたが此度の件で腹を詰めることになったら、殴った俺も同罪となる。その時は、共に腹を斬ってやろう」
斎藤はそう言うと、慈しむような視線で藤堂を見る。口元には笑みすら宿っていた。
それを見聞きした途端に藤堂は目を見開く。そして子どものようにくしゃくしゃに顔を歪めると、身体を揺らして泣き始めた。
「鈴木」
突然声を掛けられ、yaz避孕藥 桜司郎は肩を揺らす。小さく返事をすれば視線が向けられた。
「済まないが、平助を頼む。俺は一足先に戻る故。ゆるりと戻ってきてくれるか」
「わ、分かりました」
斎藤は藤堂を桜司郎に任せると、さっと立ち上がり日野宿本陣へ足を向ける。
桜司郎は再度藤堂の背を支えると、座らせた。何処か背伸びをした青年が、今は物悲しげに見える。この時代の流れで、生きる為に大人にならざるを得なかったのだろう。
掛ける言葉も見付けられないまま、桜司郎はそっと空を見上げた。澄み渡るそれを見詰めながら、何処か懐かしい風の匂いに目を閉じる。 一足先に日野宿本陣へ戻った土方は、とくに布団をもう一組別に用意するように伝えた。藤堂は斎藤らと寝かせて、自分は別で休もうとしていたのである。
宴会場だった広間へ顔を出せば、既にお開きとなっていた。酔い潰れた者だけが をかいて寝入っている。
上手く義兄がやってくれたのか、とホッとしつつ土方は中庭が見渡せる縁側に座った。
柱に寄りかかれば、疲れがドッと押し寄せてくる。
大きく溜め息を吐き、先程背中に感じた藤堂の殺気を思い出した。近くに斎藤と桜司郎の気配がある事をを知っていたからこそ避けなかったが、仲間からあの様に殺意を向けられるのは辛いものがある。
──ああまで泣かせるつもりは無かった。平助に真実を教えてやれば良かったのか。……いや、それは山南が望むまい。きっとあれで良かったんだ。
土方は答えを求めるように、夜空を見上げる。憎らしい程澄み切ったそれに満天の星が煌めいていた。
そこへ草を踏み分けるような音が響く。黒い影のように、男が現れた。
「副長。……いや、歳さん。何故平助を煽った」
後を追い掛けて来たのだろう、斎藤が静かにそう問い掛ける。
上洛して上司と部下の関係になってからは、呼び方を役職へ統一し敬語を貫いてきた斎藤が、初めて江戸の頃のように砕けた話し方になったことに土方は口角を上げる。
「盗み聞きしてやがったのか。随分と良い趣味だな。良いんだよ、アレで」
「何が良いんだ、あのように誤解を招くような言い方をして。……平助はあんたのことを恨むかも知れないぞ。下手をすれば伊東さんへ付くかもしれない」
「恨んでくれて結構。……伊東の所へ行きたきゃあそれで良い。いや、むしろそっちの方が良いのか……」
試衛館と伊東の間で揺れ動くと思われる藤堂が不憫だと思ったのだ。真面目な藤堂は必ずいつか揺れる日が来るだろう。
山南のような思いをする人間はもう生みたくない。
だったらいっその事、端から伊東に付かせた方が の気も楽なのではないか。
そのように土方は考え、自虐的な笑みを浮かべた。そんな考えすら見透かしたように、斎藤は鋭い視線を向ける。
「歳さん……あんた、この期に及んで楽になろうとしちゃいないだろうな?」
藤堂と同じ二十一とは思えないほど、まるでこの世すら達観したようなそれに土方は背筋がゾクリと寒くなった。
──楽になる?まさか逃げようとしてたというのか、この俺が。……そうか、そうだ。平助や伊東から……いや、山南から逃げたかったんだ。
まさに士道不覚悟だ、と拳を握る。
「……済まねえ」
いつもは強気の土方が急にしおらしくなった事に、斎藤は態度には出さないが内心驚く。そしてやれやれと口角を上げた。